バンダイナムコオンラインの自社IPとして2015年にリリースして以来、多くのファンの方々に愛され続けている『アイドリッシュセブン』、通称アイナナ。
 
今やバンダイナムコオンラインを代表するコンテンツにまで成長したアイナナは、どのように生まれ、どんな価値観を大切にしながら今日までの道のりを歩んできたのか。
そして、この先に見据える未来とは。
 
今回はアイナナチームからプロデューサーの下岡、根岸の2名、ライセンスチームから兼平も参加し、さまざまな角度からアイナナのこれまでとこれからについて語ってもらいました!

▲「アイドリッシュセブン」プロデューサーの根岸(左)と下岡(右)、ライセンスチーム マネージャーの兼平(中央)

−まずは、アイナナが発足した当時のことを教えてください。

下岡:
当時所属していたチームで、半期に1回、メンバーが現在のコンテンツの課題や新規コンテンツの企画書を出し合うという取り組みをしていました。
その際に根岸さんが出した企画が、アイナナの原型です。

根岸:
当時は大人の女性向けのスマホゲームがバンダイナムコグループ内になかったんです。
そこで同僚の女性メンバー数人と意見を出し合って、「女性向けのストーリー×リズムゲーム」という提案をしました。

下岡:
そもそも市場的にも、まだまだスマホゲームは男性向けのものばかりという段階で。
これから必ず女性向けスマホゲーム市場が成長すると思ったので、その先陣を切れるようにスピーディーに開発するべきだと判断しました。
当時の社長に「もしスタートがダメでも3年はやらせてください。一般的なアイドルでも売れるまで数年かかるものなので」と説得し猶予を貰ったのを覚えています。

根岸:
企画を出したあと、下岡さんに「いま同じ企画を考えている人間が世界に少なくとも3人はいると思え」と言われたことが記憶に残っています。
「スピード感を持って進めないと」と背筋が伸びましたね。
「まずは仲間づくりから始めよう」ということで、兼平さんをはじめとする社内メンバーや、社外で協力してくれる方を求め、訪ねてまわりました。

兼平:
発足当時は下岡さんと根岸さんの2人しかいなくて大変そうでしたが、営業的な立場からするとそこまで苦労はなかったんですよね。
なぜかというと、企画がわかりやすいから。
シンプルな強さと伝播力がある企画だと当時から思っていました。

下岡:
最初の半年くらいは、とにかくヒントと仲間を集めるためにいろんなところを巡りました。
キャラクターデザイン、音楽、シナリオ……皆さんポジティブに反応してくださって、「これ何が面白いんですか?」というような人は1人もいなかった。
本当にいい仲間に恵まれたと思います。
「賛同してくれる人が集まって生まれた」という結束力の強さが、アイナナの基礎になっていると思います。

−そこから、最初のターニングポイントになったような出来事はありますか?

下岡:
とにかく一生懸命に目の前のことに取り組む中で、Twitter(現X)を開設したその日にNHKさんから電話があり、トレンドにアイナナが入ったことで、その日に投稿されたつぶやきを紹介する番組内コーナーで取り上げていただきました。
このときのことは鮮明に覚えています。

根岸:
2015年の6月10日ですね。
この日は「アイドリッシュセブンというプロジェクトを世界に発表した日」、そして「IDOLiSH7というグループを世界に紹介した日」として、グループ記念日になっています。

下岡:
実は「実際に放送されるかどうかは未定」と言われていたんです。
「放送してもらえるかは分からないけど、少なくともNHKの一人の方の目には留まる。とにかく自分たちが持っている情報は全部渡して、どうやったらアイナナの為になるか考えよう」と、がむしゃらでした。
「いいものをつくろう」という気持ちに、「この素晴らしいアイドルをみんなに知ってもらうんだ」という想いが乗っかって、アイドルを売り出す事務所の様な感覚になっていたんです。
当時は予算もなかったものだから、手弁当で工夫しながらやりましたよね。
Twitterも今ではありえないような運用で色々と試行錯誤したり(笑)

根岸:
まだMVという概念が二次元コンテンツに浸透していない時代だったかなと思いますが、「アイドルには必要だよね」と、アプリ制作と並行で「MONSTER GENERATiON」のMVも制作し、YouTubeで公開しました。
まだアイドルたちが喋っている姿すらなかった時期に作っていただいたので、大変だったと思うのですが、でもこのモンジェネのMVがあったからこそ、今がありますよね。

下岡:
「アイドルが売れるためにやっていることは全部やろう」という気概でしたね。
このがむしゃら感は今もずっと続いていて。
そういったものが積み重なって、夢を叶えてこれたのだと思います。

根岸:
監修するものが一気に増えたのもこの頃でしたね。
兼平さんが会議室のテーブルいっぱいにグッズを並べて監修したり、漫画や小説の原稿をチェックしたり……。

兼平:
やってましたね〜、懐かしい。

下岡:
最初のグッズは缶バッチでしたね。
実は初めの数ヶ月は「まずは知ってもらおう、広げよう」ということで、グッズの販売に関してはライセンスフィーはゼロでやっていたんです。
だんだんとリアル店舗でアイナナの棚ができ始めた頃、兼平さんが「グッズはお客様に喜んでもらうためのものであると同時に、アイナナの広告にもなるものだから、手に取ってガッカリするようなものは絶対につくらないようにしよう」ということを明言してくれて。
この言葉はすごく響きました。
これは今も兼平さんの信念ですよね。

兼平:
当時のことはすごくよく覚えています。
初めてアニメイトグループさんに話を持って行ったのは2015年の2月でした。
その際に対応してくださった商品開発担当の方が、全国の店長会議でアイナナのことを紹介してくれたそうで。
そのちょうど翌日に新宿で物販イベントを開催したのですが、そのときに出来ていた行列を店長の方々が見てくれていたんです。
歯車が噛み合った瞬間というか、高まるものを感じましたね。

−社外の方とコラボレーションをしていく上で、大切にしてきたことはありますか?

下岡:
ファンの方々とコラボ先のパートナー様、アイドリッシュセブンの3者にとってWin-winの関係を築けないようなコラボはお断りしてきました。
ファンの方に可能な限りですが嫌な気持ち、損した気持ちになってほしくないんです。

根岸:
「アイドリッシュセブン」の各アイドルグループごとにイメージがあって、例えば「Re:vale」というグループは「絶対王者」の異名を持つので、そのイメージに合わなければ、どんなに大きな話でもお断りしなきゃいけないと思っていたんです。
無理やりやっても意味がない、でも一方でファンの方からはコラボがないことを残念がる声も挙がる。
そういった葛藤の中で、この夏に「Re:vale × セレッソ大阪&湘南ベルマーレ」のコラボ企画を実現できたのは本当に嬉しかったですね。
お待たせしてしまいましたが、Re:valeとサッカーのイメージがぴったり合った企画をファンの方々にお届けできたなと。
これからも、アイドルたちのイメージにぴったり合う良い仕事を妥協せずに持っていきたいです。

兼平:
おかげさまでたくさんのファンの方がスタジアムに足を運んでくれて、サッカーファンの方々も温かく受け入れてくれて、本当にありがたかったです。
スポーツとのコラボは初めてだったので、内心ドキドキしていたのですが……コラボTシャツを着ているファンの人が、焼き鳥とビールを手にサッカーを観戦している風景に、すごく胸が熱くなりました。

下岡:
「あれは無駄だった」と思うようなことはひとつもないです。
もちろん反省することはたくさんありますが、その時々のベストを常に尽くしてきました。
それは、これから先も続けていきたいです。

兼平:
アイナナが、誰かの人生を変えているかもしれないわけですからね。
そう思うと、どんな企画も手は抜けません。

−アイナナプロジェクトが大切にしている価値観や信念はありますか?

下岡:
プロジェクトが大事にしている姿勢の第一が「ファンと一緒に」、第二が「ワンモアサプライズ」です。
「ワンモアサプライズ」には、ただ何かを出すだけではなく、ファンの想像を超えるものをお届けして驚かせたいという想いがあります。
これは、プロジェクト発足当初から根岸さんがずっと大切にしてきたことでもあって、まさにバンダイナムコオンラインのミッションである「“ファン”の期待を超える」に通ずるものですね。
毎回、「次はどうやったらサプライズになるだろう?」とがむしゃらに考えています。
毎回全力なので、次のネタは残っていません。
気が狂いそうになるときもあります(笑)
でも結局、やりたいことは無限に出てくるんです。
この想いが面白いものやイノベーションに繋がっていると思っています。

兼平:
コンテンツが大きくなればなるほど、関わる人が増えて、いろんなアイデアや企画が集まりやすくなるというのはありますよね。
その分、全員が同じ目的地に向かうための舵取りは大変になってくる。
アイナナチームの人数がまだ1桁台のときは、1台の車にみんなで乗っているような感覚でしたが、今や2号車3号車と増えているようなイメージです。
なので、プロデューサーは大変だろうなと。

根岸:
もちろんいろんな意見がありますからね。
「その人物(アイドル)らしいかどうか」の考えは絶対である必要があると思っていて、そこはブラさないようにしています。
企画の中のセリフ1つとっても、人それぞれに積み重ねてきた生き方や考え方があるので、同じシーンでも何を言うかは変わってくるじゃないですか。
なので、内面が見えてくる部分は特に監修を厳しくさせていただいています。

下岡:
いろんな意見があっても、取捨選択のための鍵は自分の中にあるから、迷わずに進めるんだと思います。
号車は分かれていても、ナビはあるから、目的地さえ決まっていれば迷わない。
そしてその目的地は結局、「お客様が喜んでくれるかどうか」に尽きるので、そこさえ間違えなければ、バラバラになることはないはずです。

−それでは最後に、アイナナチームとして今後取り組みたいことや展望を教えてください。

下岡:
ひとつは、とにかくまだやってないことをやる。
もうひとつは、世の中に何かイノベーションが起こったときに、どうアプローチするか。
例えばみんながスマホを持つことが当たり前になったように、何か新しい常識ができたときに、アイナナだったらどう出来るのか。
その選択肢は常に準備しておくべきだと思っています。
根岸さん、どうですか?

根岸:
難しいのですが、何をしたらお客様に喜んでもらえるのかは、常に考えています。
というか、本当にそれしか考えてないんですよね、アイナナチームは。
企画を進めるかどうかの指針には必ず「喜んでいただけるか」があります。
中には、「やったら受けるだろうし、面白いかもしれないけど、がっかりされる方もいらっしゃるかもしれない」というものも出てきます。
そうやってもし少しでもマイナス面があった場合には、サプライズにはならないので、企画を取り下げたり。

下岡:
どうやって「ワンモアサプライズ」を届けるのかっていうことですね。
そういう意味では、やりたいことっていうより、やらなきゃいけないことっていう方が必然かもしれません。
その中で、やりたいことをつくっていくというか。

兼平:
個人的には、アイナナが「楽しい思い出の入り口」になったらいいなと思います。
「先のコラボイベントでスタジアムに来てくれたアイナナのファンの方々が、サッカーにハマって試合を見に行くようになる」みたいなことになったら最高だなと。
衣食住の次にあるのがエンターテインメントで、エンタメがあるからより日々が豊かになる。
その人の人生がちょっと楽しくなるようなことを、アイドリッシュセブンがやれたらいいなと思います。

下岡:
アイナナという「門」を通じて、新しい体験や記憶に残るものを届けていきたいですね。

根岸:
アイナナを通して、少しでも人生が彩られたらいいなという思いは常にあります。
「そういえばこんなことがあったよね」とふとした生活の中でちょっと思い出していただけるだけでも嬉しいんですよね。
楽しい思い出を、これからもファンの方々と一緒につくっていきたいです。

−本日はありがとうございました!